■罪と罰 土浦

■123,456GET フウリさまからのリクエスト/アンコ引継・他キャラのイベントに焦る土浦

 ちょうど目にしたその場面に。
 まだ春の声は遠いというのに、こめかみをつうと流れ落ちていく汗。
 ぎりりと奥歯を噛み締めて。
 残像を振り払うように勢いよく顔を逸らし。
 きゅっと唇を引き結んで、その場を去ることしかできなかった。

*  *  *  *  *

 深夜、土浦梁太郎はベッドに転がって、今日大学の図書館から借りてきた指揮法の本を読んでいた。
 ふと、彼の『カノジョ』である日野香穂子のことが頭を過ぎった瞬間、ページをめくっていた手がピタリと止まる。
 ぐっと眉間に深い皺が刻まれた。
 バタンと乱暴に本を閉じ、もやもやする気持ちを壁にぶつけるかの如く掴んだ本を振り上げ── 借り物だったことを思い出して投げつけるのを思いとどまり、 勉強机の上にひょいと投げ置いて、再びベッドに転がった。
 全てが狂い始めた(と彼が思っている)のは、彼女の親友── 『スッポンの天羽』という二つ名まで持つ腕利き報道部員・天羽菜美が怒鳴り込んで来てからだった。
 天羽曰く、「彼女ほっぽって何やってんの? そんなに自分の勉強が大事?」と。
 別にほったらかしにしたつもりはなかった。
 天羽に続いて現れた香穂子に「ほっとかれてると思ってるのか」と訊ねた時も「思ってないよ」と笑っていたし、 その後正門前で出くわした時に弁明めいたことを告げた時も、気にしてない、とやはり笑って言ってくれた。
 もちろん梁太郎にとって香穂子は最も大切な存在であることは変わらない。
 しかし音楽科への編入を決めた現在、これまでの遅れを取り戻したいという焦りが『彼女との時間』よりも『音楽の勉強』を優先順位の上位にランクづけしてしまったのである。
 大学の図書館で指揮に関する本を読み漁る。
 オケを束ねる指揮者を目指す以上、オケの大部分を占める弦楽器を知っておきたいとヴァイオリンも習い始めた。
 それが天羽の言う『彼女ほっぽって』な状況であることには気付きはしたが、どうしようもなかった。
 時間はいくらあっても足りないくらいなのだ。
 そんな中、音楽祭のオケのコンミスに任命された彼女を理事たちに認めさせるためのアンサンブルコンサートのメンバーにも入っているし、 彼女のためにできる自分の役割は十分果たしているはずだ。
 そう思ってはいるのだが、心の中にはどこか虚ろが広がっていくような気がしていた。
 アンサンブルの練習で顔を合わせる彼女の真っ直ぐに自分に向けられる視線を正面から受け止められなくなった。
 冬の初め頃からいつしか習慣になった彼女との登校も、やたらと気まずくなった。
 おまけに勉強もうまく捗らない。
 そしてここ最近、梁太郎は別の焦りを感じていた。

 4時間目の授業が行われた視聴覚室から自分のクラスに戻る途中、梁太郎がちょうど2年2組の前に差し掛かった時、まるで計ったかのように扉ががらりと開かれた。
 購買にでも行くのだろう、財布を手にした生徒が飛び出していく。
 教室の中に無意識に向けた視線の先、席に座ったまま上を見上げる香穂子に、同じクラスのヴィオラ奏者・加地 葵が彼女の机の前に立って花束を差し出していた。
 声は聞こえないが、ふたり何か会話を交わしている。
 と、ふわりと微笑んだ香穂子が加地の手から花束を受け取った。
 ドクン、と大きく脈打った胸が痛い。
 彼女のそんな笑顔を見たのが久しぶりのような気がしたからだ。
 気まずくなってからも彼女は笑っていた。
 けれどそれはどこかしら強張っていて、彼女が懸命に笑みの表情を作っていたことに今になって気付かされた。
 校舎の中とはいえ、まだ春の声は遠いというのにこめかみをつうと流れ落ちていく汗。
 痛みすら感じるほどにぎりりと奥歯を噛み締めて。
 笑顔で花束を受け取る彼女の残像を振り払うように勢いよく顔を逸らし。
 きゅっと唇を引き結んでその場を去ることしか、今の梁太郎にはできなかった。

 数日後の個人練習に当てられた放課後、梁太郎は自宅で練習しようとエントランスを出た。
 校舎から正門までのほぼ中央に建つ妖精像、その下に見慣れた人影が佇んでいる。
 像の土台にもたれかかっている横顔は、紛れもなく香穂子だった。
 自宅に防音設備のない彼女は遅くまで学校に残って練習するものだと思っていたのだが。
 もしかして自分を待っているのだろうか?
 彼女との気まずさは相変わらずだったが、それでもくすぐったいような嬉しさがじんわりと湧いてくる。
 どうせ家に帰るのだし、たまには一緒に帰ろうか、と一歩足を前に出し──
「日野ちゃーん!」
 バタバタと慌しく横を通り過ぎていったのは火原和樹。音楽科3年、トランペット専攻。
 彼女の前で急ブレーキ、つんのめった身体を空いた腕をぐるんと回してバランスを取る。
「ごめんねっ、待たせちゃった?」
「いえ、私もついさっき来たところですから」
「ほんと? あーよかった。じゃ、行こっか」
「はい」
 にこやかに会話を交わした二人は、並んで正門へ向かっていく。
 二人に気付かれもしなかった梁太郎は、知らず握り締めていた拳を解き、短い髪を乱暴に掻き上げて、
「……くそっ」
 ポケットに手を突っ込み、家路を急いだ。

*  *  *  *  *

「── 土浦くん?」
「え…?」
 名前を呼ばれて、はっと我に返る。
 呼んだのは都築茉莉。付属大学の指揮科の学生であり、香穂子がコンミスを務めるオケの指揮者でもある。
「どうかしたの? 気もそぞろ、って感じね」
「はぁ……すみません」
「私は別に構わないわ。ただ、あなたもアンサンブルに参加している以上、演奏に影響が出ない程度にはしっかりしてほしいものね」
「はぁ……」
 都築の厳しい口調に、つい返す言葉が弱くなった。
 彼女の中では香穂子をコンミスとしたオーケストラでの曲の構想が既に練られているに違いない。
 もしアンサンブルコンサートに失敗して香穂子のコンミス就任が理事たちに認められなければ、構想は一から練り直しになるだろう。
 口調が厳しくなるのも当然と言えた。
「はい、ご所望の本よ」
「あ、ありがとうございます」
 都築から数冊の本を受け取る。
 アンサンブルの練習を終えて、逃げるようにして駆け込んだ大学図書館。
 梁太郎が読みたい本はほとんどが閉架に収められていて、それを借り受けるには大学関係者の立ち会いが必要だった。
 彼が指揮科志望であることを知って何かと気にかけてくれる都築に甘え、今日も図書館へ付き添ってもらっているわけだが、そんな彼の行動が様々な噂を呼んでいることを彼はまだ知らない。
 ましてや『立っている者は親でも使え』的思考で都築と行動を共にしている梁太郎に、そんな噂が立っていることは予想すらできていなかった。
 一方、噂を耳にした香穂子がどれだけ心を痛めているのか── 彼女とまともに顔を合わせられない梁太郎が気付くはずもない。
「── 土浦くん、『視野狭窄』っていう病気、知ってるかしら?」
「は…?」
 突然の話題転換に着いていけず、梁太郎はぽかんとしたまま都築を見た。
 さっきの厳しさは消え失せ、口元に柔らかな笑みを浮かべている。そんな話題を持ち出した彼女の真意が分からなかった。
「聞いたことは……文字通り、視野が狭くなっていく病気ですよね?」
「そう、正常な視野があれば何ということもない障害物が避けられなくてつまづいてしまったり……結構危険よね」
「……ですね」
「見えていなかったものはつまづけばそこにあるということがわかるけれど── そこにあると思っていたものがいつの間にかなくなっていることに気付かない、 あるいは気付くのが遅れるのは、もっと危険だと思わない?」
「── っ !?」
 そんなこと、既に気付いていた。
 遅れを取り戻したいという焦りが、極端に視野を狭くしていることに。
 焦りが治まるまでは勉強を優先させてほしい。
 ある程度納得したら、以前のように二人で過ごして──
 けれど、別の焦りにもやもやして勉強が捗らない今、納得するまで勉強を続けていたら『彼女の隣』というポジションは自分ではない他の誰かのものになっているかもしれない。
 それが新たな焦りを呼び、更に勉強が捗らないという悪循環になっていることは身に沁みてわかっている。
 思わず唇を噛み締める。じわりと血の味が口の中に広がった。
「── これから王崎くんのレッスンだったわね。私は用事があって今日は立ち会えないけれど、頑張って」
 ひらりと手を振って、踵を返す都築。
 颯爽と歩いていく都築の後ろ姿を見送ることなく俯いたまま、梁太郎は無性に唾を吐きたかった。
 ズバリ指摘されたバツの悪さも、焦りも苛立ちも、自分自身への怒りも全部、血の味と一緒に吐き出してしまいたかった。

 気の重さを引きずるように向かったのは駅前のスタジオ。
 梁太郎は週に1回ではあるが、ここでOBの王崎信武からヴァイオリンの手ほどきを受けている。
 のん気にヴァイオリンを弾いている気分ではなかったが、プロデビューも果たした多忙な先輩の貴重な時間を融通してもらっている以上、気が乗らないから休むというわけにもいかず。
 しんと静まり返ったスタジオで楽器の準備をしていると、遅くなってごめん、と王崎が飛び込んできた。
「土浦くん、申し訳ないんだけどどうしても外せない用事ができちゃって、これから行かなきゃならないんだ」
「あ、俺のことなら気にしないでください。無理言ってるのはこっちなんだし」
 本当に申し訳なさそうに詫びる人のいい先輩に、梁太郎の方が申し訳なくなってくる。
 レッスンを受けなくていいと思った瞬間、ほっとしていたのだから。
「その代わり、別の先生に来てもらったから。しっかり練習してね」
 余計なことを、と思わず舌打ちひとつ── もちろん彼に聞こえないようにこっそりと。
 どうぞ、と王崎が声をかけた扉が開き、入ってきたのは──
「なっ !?」
 入ってきた人物は梁太郎の前に立つとペコリとお辞儀をして、
「王崎先輩の代理を務めます、日野香穂子です。よろしくお願いします」
 そう言って、にっこりと笑った。

「── じゃあ、始めましょうか」
 王崎がスタジオを出ると、香穂子はケースからヴァイオリンを取り出し、慣れた手つきで調弦を始めた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。なんでお前がここに──」
 梁太郎が慌てるのも無理はない。
 彼がヴァイオリンを始めたのは、弦楽器を勉強したいという彼に王崎に習うことを提案してくれた都築と、それを快く引き受けてくれた王崎しか知らないことなのだ。
 ヴァイオリンを専門としている彼女には特に知られたくなかった。そこそこ弾けるようになってから披露して、驚かせてやろうと思っていたのに。
 それでも、彼女が今ここにいることが少し嬉しいと感じているのが不思議だった。
「なんでって……王崎先輩に頼まれたから」
 こともなげに答える香穂子。
 確かに『香穂子には絶対言うな』とは言わなかったが、『形になるまでは他のヤツらに知られたくないんですが』とやんわりと口止めしていたはずなのに。 ここにはいない先輩をついつい恨んでしまう。
 それよりも、こんなバレ方をしてしまうなんて、今すぐ穴を掘って埋まってしまいたい気分だった。
「── っていうのは建前で、ほんとは私が先輩に頼んだの。私にやらせてください、って」
「はぁっ !?」
「梁がここで王崎先輩にヴァイオリン習ってる、って天羽ちゃんに情報もらったから」
「っ!」
 そっちから漏れたとは── 『スッポン』の二つ名を甘く見ていたとしか言いようがない。
 親友思いの天羽のこと、あれ程憤りをあらわにして食ってかかってきたくらいだから、彼の行動を調べて『秘密のレッスン』を突き止めるくらいのことはするだろう。
「だ……だからって、お前は今、こんなとこで潰してるような時間はないはずだろっ」
「大丈夫、ちゃんと集中して練習してるから。だらだら弾いてるよりよっぽど上達するみたい」
 こともなげにそう言って、ふふっと笑う香穂子。
「………ここに来て気まずい思いするくらいなら、花くれるヤツとか一緒に帰ってくれるヤツとかと一緒にいたほうがいいんじゃないのか?」
 『来てくれてありがとう、嬉しいよ』と言ってしまえれば全て丸く収まりそうなものなのに、なけなしのプライドは逆ギレをけしかけ、口は勝手に皮肉めいた言葉を紡いでいく。
 言ってしまった後で歯噛みしても、もう遅い。
「花……?」
 香穂子はそんな彼の皮肉にも動じず、小指に弓をぶら下げたままの右手の人差し指を顎に当て、記憶を探るように視線を宙に彷徨わせ、 思い当たる記憶に辿り着いたのかぱちぱちと瞬きを繰り返して、ああ、と呟いてくすっと笑った。
「もしかして、加地くんに花もらうとこ、見てた?」
「……まあな」
「あの日の前の夜、加地くんのお父さんのパーティがあったんだって。会場が花だらけでね、もったいないからって学校に持ってきてくれて」
「…は?」
「あの日、うちのクラスの女子、全員がお花抱えて帰ったんだよ」
 ── タネを明かせば、そんな単純な話だったとは。
 冷静に教室の中を見回せば、他の女子が花を持っている光景が見られたのだろう。視野が狭すぎるにも程がある。
 だが。
「……ここ最近、誰かと一緒に帰ったことはないんだけどな」
 再び記憶を探る作業に入った香穂子が眉間に皺を寄せ、小さく呟いた。
「……正門で待ち合わせてただろうが── 火原先輩と」
「ああ!」
 何が可笑しいのか、香穂子はしばらくくすくす笑い続け、目尻に滲んだ涙を指で拭うと、
「それ、王崎先輩のボランティアのお手伝い。私も火原先輩も用事で来れなくなった人のピンチヒッターで、子供たちの前で演奏したの」
 種明かし第2弾で一気に身体の力が抜けて、その場にうずくまってしまいそうになった。
 自分から彼女を放置して、勝手に邪推して、勝手に焦って、ひとり空回って。
 あまりに情けなさすぎて、今回の穴は相当深く掘らないと埋もれきれそうにない。
「その時にね、王崎先輩に今日のことをお願いしたの」
「な…っ」
「心配しないで、火原先輩が帰った後だから、先輩にはここのことバレてないよ」
 安堵のあまり、頭がカクンと下がり、深い溜息が零れる。
「── でも」
 変化した口調に、梁太郎は思わず顔を上げた。
 目の前の香穂子は、さっきまでの笑顔とは打って変わって、真剣そのものの真顔になっていた。
「勉強に集中したいなら応援する。ヴァイオリンの練習だって協力する。だから──」
 言葉を切った香穂子は一瞬目を伏せ、次の瞬間上げた視線を真っ直ぐに梁太郎の目に据えた。
 そして。
「それならそうと先に一言言って。私にまで隠れてコソコソしないで」
「── っ」
 と、香穂子の表情がくしゃりと崩れた。半分笑い、半分は泣いているような複雑な表情に。
「じゃないと、『私が土浦梁太郎のカノジョです!』って胸張って言えなくなっちゃう」
「香穂……」
 梁太郎はおずおずと彼女に右手を伸ばす。
 辿り着いたのは彼女の細い肩。
 そのまま引き寄せて抱きしめるのは簡単だったが、今はそうしてはいけないと思ったのだ。
 本来、まずは贖罪を済ませなければ彼女に触れることすら許されないのかもしれない、と。
 だがせめて── 彼女を引き寄せる代わりに彼の方から一歩近づき、空いている右肩へとコトンと額を落とした。
「── ごめん」
 するりと出てきた素直な言葉。
 顔が見えないせいなのか、彼女の前でプライドに身を固めるのは無意味だと気付いたせいなのか。
「お前が他のヤツと一緒にいるとこ見たら、ムカムカして、イライラして── 自分からお前と距離とったクセに、お前のことばっか考えて勉強も進まねえ。 かといって妙なプライドが邪魔して素直に頭下げることもできなかった。おまけに小さな秘密ひとつまともに隠し切ることもできねえ。自分でも情けないと思うが──
やっぱ俺はお前がそばにいないと何にもできないみたいだ」
 一気に心の内を吐き出すと、すぅっと楽になったような気がした。
 彼女からの許しを得ていない状態では、単なる自己満足に過ぎないのかもしれないが。
 香穂子は後ろ手に右手の弓をヴァイオリンのネックを持つ左手の指に引っ掛けると、その空いた右手を肩に乗ったままの梁太郎の頭の上へそっと置いた。
 梁太郎の丸めた背中がピクリと小さく震えた。
 子供をあやすようにポンポンと叩くと、
「もしかして、香穂子さんのありがたみがわかったってことなのかな〜?」
 茶化すような物言い。
 許された、のだろうか?
 梁太郎は知らず口元に浮かんでくる笑みを抑えられないまま、「痛いほどにな」と即答した。

「でもね……誤解を解くのは大変かもよ?」
「は?」
 梁太郎は思わず顔を上げた。
 たった今、香穂子とのわだかまりは解消したではないか。
 それ以上に何の誤解が……?
 よほど変な顔をしていたのだろうか、香穂子は「知らないの?」と怪訝な顔で小首を傾げた。
「『土浦くんは日野さんから都築さんに乗り換えた浮気男』ってことになってるよ? 生徒の8割はそう思ってるんじゃない?」
「はぁっ !?」
 まさに晴天の霹靂。襲ってくるめまいに、一瞬気が遠くなる。
「まぁ、私は天羽ちゃん情報でふたりがそういう関係じゃないってことは知ってたから梁のこと信じてたけど……みんなはそうじゃないみたい。 私なんて『学院の救世主』から『傷心の失恋少女』に大幅格下げされちゃって、慰められるやら励まされるやらで大変だったんだから」
「── っ !?」
「明日からはきっと『都築さんにフラレた土浦くんが日野さんに謝り倒してヨリ戻した』とかって噂が立っちゃうんだろうな〜」
「う゛っ…」
「ま、その辺りは私もフォローするけど」
「…………頼む」
「その代わり、今度の休みに買い物付き合って」
「……何買うんだ?」
「枕。ここ最近、朝起きると枕がぐっしょりなのよね。もうそういうこともなくなりそうだし」
「……わかった、詫びに俺が買ってやる」
「やった♪ らっきぃ♪」
 香穂子は嬉しそうにぴょんと跳ねると、くるっとスカートを翻して梁太郎に背を向け、
「─── 二度目は、ないからね?」
 深い海の底のような、昏く冷たい声。
 背中にゾクリと悪寒が走るほどに。
 ── まさか、まだ許されてない !?
 そして再び振り返った香穂子は明るい声と笑顔で、
「それではレッスンを始めます!」
 とヴァイオリンを構えた。

 意外にもわかりやすくて楽しいレッスンの時間はあっという間に過ぎ、香穂子を家まで送り届けて帰途に就いた梁太郎。
 さて、明日からどんな顔をして学校へ行けばいいのやら。
 登校拒否してしまいそうな気の重さが圧し掛かってくる。
 だが、香穂子とはもう気まずい思いをしなくて済むと思えば、他のヤツらがどう思っていようと関係ない。
 あとは彼女の信頼の完全回復を目指すのみ。
 いつも真っ直ぐに自分を見てくれている彼女を、自分もまた真っ直ぐ見つめていられるように。
 しかし迂闊な行動が引き起こしてしまった罪を償うにはまだまだかかりそうだ、と梁太郎は冬の星空を見上げ、大きな溜息を吐くのだった。

〜おしまい〜

【プチあとがき】
 カウント123,456GETを申告してくださったので特別リクエスト権を差し上げた
 フウリさまからのリクエストにお応えしてみました。
 書いてるうちに何が書きたかったんだかわかんなくなってきた……すみません。
 おまけにまとまりなくて無駄に長いし。
 こんな展開もアリ?なパラレル話だと思ってください。
 それにしても、できた子だねぇ、この話の香穂子さん。
 ま、実際土浦引継ルートの香穂子さんはできた子だったしね。
 でも、うちの香穂子さんは報復も忘れてない。
 彼女の放ったボディブローは後からじわじわ効いてくるよ、きっと(笑)
 最後まで土浦さんがあんまり報われてない感じですが、
 引継ルートの土浦の態度への「こんちくしょう感」を香穂子さんに成り代わって晴らす、
 というのが今回のテーマですから(笑)
 ちょっぴしアシュのイベントと被ってるってのは完全スルーの方向で(汗)
 フウリさま、リクエストありがとうございました。

【NOTICE】
 このSSは、リクエスト主さまに限り、お持ち帰りフリーです。
 サイトをお持ちの場合、掲載していただいてもかまいません。
 その場合、当サイトへのリンクは任意としますが、このSSが『神崎悠那』作であることを
 必ず明記してくださいますよう、お願いいたします。

【2008/08/31 up】