■愛の告白 土浦

※コミックス最終巻ネタ注意

「ごっめーん!  ジニーと寄り道しちゃってたー」
 遅れて部屋に帰ってきた香穂子の手には、よく行くCDショップの袋。
「なんだ、CD買ってきたのか?」
「ううん、予約してたDVD。 今日入荷したって連絡があったんだー♪  あとで一緒に見ようね♪」
 ご機嫌な様子で洗面所に手を洗いに行く彼女の背を見送りながら、梁太郎はげんなりと溜息を吐く。 かくん、と項垂れて、もう一度溜息を吐いてから、すでに出来上がっている夕飯を温め直すためキッチンへと向かった。

「梁〜!  DVD見るよ〜!」
 今日のスケジュールは全て終了、あとは就寝のみ。 歯を磨いていた梁太郎は泡いっぱいのまま、おー、と気だるく答えてから口をすすぐ。
 はっきり言って気が進まない。
 彼女がこれから見ようとしているDVDは日本のドラマである。 海外でも吹替版と字幕版のDVDが発売される程には人気があるらしい。 一人の少女を巡る学園ものの恋愛ストーリー── 梁太郎にとって一番苦手なジャンルだった。
 さらに困ったことに、キャラ設定やストーリー展開が時折デジャヴを起こすほど自分たちの境遇に似ていることがあるため、見ていてなんともこっ恥ずかしくなってくるのだ。 そのせいか、香穂子は主人公であるヴァイオリニストの少女に相当感情移入しているらしい。 今回買ってきたのは、『感動の最終巻!』なのだそうだ。
「ほら、早く早く!」
 テレビに向かいクッションを抱き締めスタンバイ完了している香穂子の隣、ソファの空いたスペースに仕方なく腰を下ろす。
「じゃ、スタート!」
 香穂子がテレビに向けたリモコンの再生ボタンを押した。

「── はぁ〜……終わったぁ……やっぱりそうなるのかぁ……」
 ドラマはヴァイオリニストとピアニスト、二人の少年の間で揺れていた少女が、自分が目標とするヴァイオリニストとハッピーエンドを迎えるというものだった。
「んー、私だったらずっと近くで見守っててくれたピアノの子を選ぶんだけどなー」
「……ドラマと自分をごっちゃにすんなよ」
「でもー、あんなストレートに告白されちゃったらクラッと来ちゃうよ」
 抱えたクッションをぎゅうっと抱き潰しながら、香穂子は身をくねらせている。 どうやら彼女はピアニストの少年の玉砕覚悟の告白シーンを余程お気に召したらしい。 梁太郎としては、ピアニストで元運動部という設定があまりに自分に近すぎるために画面を直視できないほど恥ずかしかったというのに。
「……そんなもんか?」
「そんなもんなの!  ね、あのセリフ、言ってみてよ」
「はぁっ !?  なんで俺がっ」
「いいじゃない、ああいう告白、聞いてみたいもん」
「いっ、言ってなくもないだろうがっ!」
「えー、そうだった?  梁はいつも遠回しだから、よくわかんなーい」
 甘ったるい言葉はどうにも気恥ずかしいから、あまり口にしないのは確かだけれど。 だが香穂子の態度にカチンときた梁太郎は、売られた喧嘩を買わざるを得なかった。
「よしわかった、耳の穴かっぽじってよーく聞けよ!」
 お世辞にも甘い雰囲気とは言えないヤケクソな前置きをして、香穂子の耳元に顔を寄せる。
「── 香穂……お前が好きだよ」
 途端、香穂子の動きがぴたりと止まった。 カメレオンがその身体の色を変化させるが如くぱあっと顔を赤く染めたかと思うと、抱えていたクッションをいきなり梁太郎の顔にぼふっと押し付けて、どたどたと寝室に駆け込んだ。
「なっ、お、おい、香穂っ !?」
 慌てて追いかけた梁太郎が見たのは、ベッドの中央あたりで蹲る香穂子。 頭を枕の下に突っ込んでいる。
「……おい、人に恥ずかしい思いさせておいて、何やってんだよ」
「……だめ……すっごい精神攻撃……」
「はぁ?  あのな……」
 すると香穂子は頭に乗せていた枕を顔を隠すように引き寄せながらごろんと転がって、抱き締めた枕からほんの少しだけ真っ赤な顔を見せた。
「梁……愛してる」
「っ !?」
 唐突な愛の告白に、今度は梁太郎が固まった。
「ねっ、ねっ、すごいでしょ、精神破壊されるでしょっ」
 香穂子はきゃーきゃーと叫びながら、ベッドの上でじたばた暴れている。
「……確かに威力バツグンだな」
「えっ、きゃっ !?」
 梁太郎がベッドの上にダイブしたせいで、香穂子の身体がぴょんと弾んで小さな悲鳴が上がった。
 思いがけない愛の告白は、梁太郎の精神ではなく理性を壊滅的に破壊したのだった。

〜おしまい〜

【プチあとがき】
 うふふっ、書いちゃった♪
 久しぶりの土日がこんなお下品な話とは(汗)
 突っ込みどころはスルー推奨。
 コミクスは月日スキーの皆さんにはブラボーな着地点だったと思いますが、
 土日スキーのおいらはやっぱり土浦さんと香穂子さんにイチャコラし続けて欲しいのです。

【2011/07/11 up】