■忘れてない?
加地 葵がウィーンに遊びに来ることになり、自宅アパートに招待することにした梁太郎と香穂子。
さて、もてなすメニューは何にしよう?
和食── 日本から来る友人にわざわざ和食もな。
オーストリア料理── いまいち馴染みもなくて『これだ!』ってものがないんだよな。
中華── 材料揃うか?
フレンチ── 手がかかりそうだよな。
そんなわけで、結局低予算でボリュームの出せるイタリアンということに決めた。
小さなテーブルに向かい合わせに座り、頭を寄せ合ってメニューを決める。
スパゲティーにピザ、カルパッチョなんかもいいな。
広げた紙にメニューを書き込んでいく。
作るものが決まれば、次は買い物リストの作成。
4人分の材料を書き出して、忘れ物のないように買い物をしなくては。
「月森くんは普通だけど、梁も加地くんも結構食べるから、もう1品増やさない?」
「……よく食うのはお前もだろ」
「うっ……だって、梁の作るご飯、おいしいんだもんっ」
「はいはい、わかったから食いたいもん言えよ」
「何がいいかなぁ……」
祈るように胸元で手を握り合わせ、メニューを考え始める香穂子。
目をくるくると動かし、表情をころころと変えながら一生懸命考えている姿が微笑ましい。
梁太郎は口元に笑みを湛え、その様子を眺めていた。
すると。
「あ」
天井を見上げた香穂子の動きがぴたりと止まる。
「どうした?」
「忘れてない?」
「何を?」
「……王崎先輩」
「……あ」
香穂子はソファの上に投げ出してあったカバンから携帯を取り出すと、席に戻ってメールを打ち始めた。
「……王崎先輩は忙しいんだろうなぁ」
「せっかく同じウィーンにいるんだもん、ダメモトで誘ってみようよ」
「まぁ、日本にいる時には世話になったしな」
顔を見合わせ、微笑み合い。
香穂子はメールを打つ作業に戻り、梁太郎は買い物リストを5人分に書き換えるのだった。
〜おしまい〜
【プチあとがき】
あぁ、やっぱり王崎先輩が不憫だ(笑)
同級生チームは仲がいいんだもん、しょうがないよね。
【2008/04/21 up/2008/04/26 拍手お礼より移動】